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血圧の基準値が徐々に厳しくなっているのはなぜ?SPRINT trialを交えて

[2022.02.28]

高血圧症の診断における基準値をご存知でしょうか?

家庭血圧 135/85mmHg以上
診察室血圧 140/90mmHg以上

を高血圧症と呼んでいます。135/85もしくは140/90が基準値となります。ところで昔はどうだったでしょうか?

一昔前は収縮期血圧が「年齢+90」が目安とされていました。

1987年には旧厚生省が180/100mmHgを診断基準としていました。

徐々に基準値が下がり、現在では上のような値となっています。基準値が下がったことにより多くの方が高血圧症と診断されるようになりました。日本人のおおよそ3人に1人が高血圧症とされています。高血圧の基準が下がってきたのは医学的な根拠があります。これまで数十年間で高血圧の研究が進み、「血圧はしっかり下げた方がいい!」ということがわかってきたからです。その中でも比較的最近の論文を1つ紹介します。

 

論文:SPRINT trial

SPRINT trial

“A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control”

November 26, 2015 N Engl J Med 2015; 373: 2103-2116 DOI: 10.1056/NEJMoa1511939

原文はこちら

日本語要約はこちら

 

2015年に発表された血圧についての研究です。血圧をどこまで下げればいいか?という疑問に対して行われた試験です。収縮期血圧130mmHg以上の心血管病のリスクが高い9361人の方が対象です。糖尿病の方は除外されています。収縮期血圧120mmHgを目標にした「強化治療群」と、収縮期血圧140mmHgを目標とした「標準治療群」に分けました。心筋梗塞や狭心症、脳梗塞、心不全、心血管死がどちらが多いか比較されました。

3.26年経過したところで、明らかな差がついたため試験は中止となりました。

心筋梗塞や狭心症、脳梗塞、心不全、心血管死の割合

  • 収縮期血圧120mmHg以下を目標とした強化治療群:1.65%
  • 収縮期血圧140mmHg以下を目標とした標準治療群:2.19%

となりました。0.5%程度の差ですが、科学的には有意な差です。死亡率も強化治療群の方が少なかったです。低血圧や意識消失、急性腎不全などは強化治療群の方が多かったです。

以上より糖尿病以外の心血管病のリスクが高い方に対して、収縮期血圧120mmHg以下を目標にした「強化治療」は、収縮期血圧140mmHgを目標とした「標準治療」より有益と結論づけられています。

(より多くの方に分かり易く伝えるため、省略した部分が多くあります。一部科学的でない表現も含んでいます。気になる方は原文をお読み下さい。)

 

SPRINT trialの後

この論文を機に世界中で血圧の治療について議論されました。「高血圧症はしっかり治療した方がいい」というのが一致した見解であり、各国で高血圧症の基準値が引き下がりました。

我々が「血圧をしっかり下げるように」と話すのは、こうした背景があります。日本高血圧学会では血圧の基準値についてのポスターを公開しています。是非ご覧下さい。

日本高血圧学会「世界も日本も、高血圧基準は140/90mmHgです。」

 

最後に

高血圧症は日本人に最も多い病気ですが、まだまだしっかり治療受けていない方が多くいらっしゃいます。徐々に高血圧の基準が下がっているため、「いつの間にか自分も高血圧症ということになっている」といった方も少なくありません。ご質問等ありましたらぜひご相談下さい。

高血圧症

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