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失神

2人に1人が人生のうちに少なくとも1回は失神すると言われています。救急外来受診の1-2%は失神と言われています。それほどありふれた症状でありながら、失神の診療は難解です。失神は交通事故や突然死の原因になることがあります。全ての失神は医師による診察が必要です。失神について解説していきます。

 

失神とは

失神とは一時的な意識消失であり、自然に、かつ完全に意識が回復する状態です。意識消失している時間は、10秒から2-3分です。数十分続く失神というのは基本的にありません。数十分意識がぼんやりして自然に戻る場合は、てんかんの疑いがあります。てんかんも重要な疾患であり、その場合も当院で診療致します。

てんかん

 

失神の病態

失神は脳に一時的に血流が低下することにより生じます。脳全体の一時的な血流低下が失神の本質です。脳に血流がストップすると、概ね5-10秒程度で意識がなくなります。血流が2-3分ストップすると脳神経細胞が損傷し後遺症を起こします。そのため失神は10秒から2-3分程度の持続時間です。目が覚めた後には無症状というのが失神の原則です。目が覚めた後も普段より意識がぼんやりしているような場合は、意識障害と区別しています。

 

失神の原因と分類

失神は起きた状況が非常に大事です。検査結果より状況を重視します。心原性失神、神経反射失神、起立性失神、原因不明の失神という4つに概ね分けられます。脳神経疾患は失神を生じることはほとんどありませんが、てんかんなどの一部の病態は失神と区別が難しいです。併せて解説していきます。

 

心原性失神

心原性失神は心臓により生じる失神です。心原性失神は突然死の一歩手前であることがあり、見逃してはいけない疾患の1つです。歩行中の失神、横になっている時の失神、前兆のない失神というのが心原性失神を疑う症状です。心疾患の中でも不整脈、心筋症、弁膜症(特に大動脈弁狭窄症)などが原因になります。心筋症や大動脈弁狭窄症は心電図や心エコーで診断が可能であり、失神の際には心電図や心エコーを行なっています。

心筋症 特に心肥大と心拡大

大動脈弁狭窄症

不整脈が原因の心原性失神では診断が難しいことがあります。失神している時のみ不整脈を生じている場合は、受診時の心電図では不整脈はありません。その場合はやはり心電図や心エコーで「不整脈を起こすような心疾患があるか」というのを探します。また24時間心電図で不整脈を検索します。以上の検査で不整脈や不整脈を起こす心疾患が見当たらない場合は、失神が1回であれば慎重に経過をみることとなっています。失神が複数回生じている場合は、ループレコーダーという治療を行います。ループレコーダーは体内に植え込む手術が必要です。ループレコーダーは約3年における不整脈を検出でき、非常に有用な検査です。適応となる方にはご説明致します。

 

神経反射失神

最も多い失神の原因です。様々な要因により生じる交感神経/副交感神経の活動により生じる失神です。長時間の立位、痛み、緊張、閉鎖空間などが原因になります。同じ姿勢を長時間取っている時に起こることがほとんどであり、朝に多いです。失神の前に吐気や気分不快、腹痛などの前兆を来たします。

典型的には「女子学生が朝礼中に立っていて気持ちが悪くなりそのまま失神した」「満員電車の中で気持ちが悪くなりそのまま失神した」という症状です。血液検査や予防接種などの痛みで失神が生じることもあります。

失神を起こす時の状況が限られている場合が多いです。失神の前に前兆を生じることが多く、病態がわかれば予防が可能です。最も大切なのは「前兆が起きた時はとにかく座る、可能なら横になる」ことです。状況的に座るのが難しい場合は、両手を組んで引っ張ることにより多少の失神予防効果が見込めます。当院でお伝えします。

 

起立性失神

起立性失神は、起立性低血圧により生じる失神です。人間は立ち上がる時に頭が上に上がるため、脳に向かう血流が低下し血圧が低下します。通常は神経系が血圧のコントロールを行なっており過剰に血圧が下がることはありません。何らかの原因で神経系の反応がうまくいかない場合は立ち上がった時に過剰に血圧が低下し失神します。自律神経が関与しているため、食後、運動後などの環境が関与しています。

起立性失神は立ち上がった時に起こります。失神が生じる状況が限られるため、病態を理解すれば防ぐことができます。基本的な対処法は立ち上がる時に気をつけることと水分をしっかり取ることです。頻繁に生じる場合は自律神経障害の検索を行います。パーキンソン病で生じることが有名です。利尿剤や血圧の薬は起立性失神の誘因になることがあり、必要な場合は薬剤調整します。

 

原因不明の失神

失神は原因不明なことが少なくありません。神経反射失神や起立性失神は状況が特定的であり、経過から診断が可能なことが多いです。心原性失神の可能性が否定できない場合、心電図、心エコー、24時間心電図で一通りの検査を行います。各種検査で異常がない場合は『心原性失神を疑うが確定診断に至らない』という状況になります。これを原因不明の失神と呼びます。

原因不明の失神の場合は、まず失神だったのか再度確認します。てんかんなどの一部の疾患は失神と間違われることが多いです。必要に応じて頭部MRIや頸動脈エコーなどの検査を行います。心原性が疑わしい場合は、携帯心電計や一定期間を置いて再度24時間心電図を行います。2回目以降の原因不明の失神の場合は、ループレコーダーの適応になります。ループレコーダーは体内に植え込む手術が必要ですが、現状使えるデバイスの中では最も有用な検査です。必要な際はご説明します。

 

脳神経疾患

失神とは脳全体の一時的な血流低下です。そのため脳神経疾患で失神が起きることは原則的にありません。頭の後ろ側にある血管の病気で失神が生じることがあると言われていますが、失神のみで来院することは極めて稀です。

てんかんや意識障害の方が失神という主訴で来院されることは度々あります。その場合ももちろん当院で対応致します。

 

最後に

失神は極めて危険な状態のことがあり、全ての失神に対して医師の診察が必要です。数多くの失神からいかに正確に心原性失神を見極めるかが特に大切です。失神や重篤な事故や突然死につながることがあります。何かの際には当院を受診下さい。

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