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脂質異常症

脂質とは

脂質は、炭水化物とタンパク質と並ぶ人間のエネルギー産生栄養素です。体内のエネルギー源、細胞膜やホルモンなどの構成物質として使用されています。血液中では中性脂肪とコレステロールに分けられます。コレステロールは大きくLDLとHDLに分けられます。コレステロール自体は細胞の膜を構成したり、ホルモンの原料として使われます。ただコレステロール、特にLDLが血液内に過剰になった際は、動脈硬化が進みやすいことが知られています。

LDLコレステロール

コレステロールを肝臓から全身に運搬する

過剰になると動脈硬化の原因になる

HDLコレステロール コレステロールを肝臓に戻す
中性脂肪

エネルギー源になる

過剰になると動脈硬化と関与する

非常に高値になると膵臓に負担がかかり膵炎になりやすい

 

脂質異常症とは

脂質異常症は、血液内に含まれる脂質の異常を指します。脂質異常症は①高LDL血症、②高中性脂肪(高トリグリセリド)血症、③低HDL血症の3つがあります。診断基準は下記になります。

LDLコレステロール

140mg/dl以上

高LDL血症
  120-139mg/dl 境界域高LDL血症
HDLコレステロール

40mg/dl未満

低HDL血症
中性脂肪(トリグリセリド)

150mg/dl以上

175mg/dl以上(非空腹時)

高中性脂肪(トリグリセリド)血症

10時間以上食事を抜いた状態の血液検査で診断しています。ただ現実的には毎回食事を抜くことはデメリットも大きく、当院では特別な事情がない限り食事を抜いた血液検査は行なっておりません。LDLコレステロールとHDLコレステロールは食事による影響は受けないため、非空腹時の検査でも同様の基準を用いています。中性脂肪は食後に上昇するため、ヨーロッパでのガイドラインを参考に175mg/dl以上を高中性脂肪血症と診断しています。

脂質異常症は基本的に症状はありません。症状がないにも関わらず「病気」とされている理由は、脂質異常症は動脈硬化、特に心筋梗塞の発症のリスクとなるからです。

 

高LDL血症、低HDL血症、高中性脂肪血症の違い

高LDL血症、低HDL血症、高中性脂肪血症はそれぞれ病態が異なり、対処法も異なります。この中で食事などの生活習慣の影響が大きいのは高中性脂肪血症です。高LDL血症と低HDL血症はどちらかと言うと遺伝的因子や体質が関与していることが多いです。

 

1. 高LDL血症

高LDL血症は、3つの中でも一番強い動脈硬化の増悪因子です。そして3つの中でも一番薬剤治療の効果が証明されています。LDLは別名悪玉コレステロールと呼ばれています。血管の壁に付着し、動脈硬化を生じるとされています。LDLを厳格にコントロールするだけで心筋梗塞は大きく減らすことができます。特にスタチンという薬をいかに社会に適正に供給するかが大きなテーマです。下のページで解説します。

高LDL血症

LDLは生活習慣と共に体質の影響が大きいです。特に遺伝子異常が特定されているような病態を家族性高コレステロール血症と呼んでいます。下のページで解説しています。

家族性高コレステロール血症

 

2. 低HDL血症

HDLが40mg/dl以下の場合は、低HDL血症と診断されます。低HDL血症も心血管リスクに関わりますが、はっきりした有効な治療がありません。他の動脈硬化因子や背景を考慮し、場合によってはスタチンを導入しています。

 

3. 高中性脂肪血症

中性脂肪はLDLと異なり、食事などの生活習慣の影響が大きいとされています。脂質の過剰摂取以外にも、糖質の過剰摂取や運動不足が原因となります。中性脂肪が多いと膵臓に負担がかかり、膵炎になりやすいとされています。高LDL血症とは異なり、第一選択は生活指導となります。特にアルコール摂取が関連していることが多いです。改善に乏しい場合や他の動脈硬化因子を考慮し、薬剤導入を行なっています。スタチンが同時に適応となる際は、スタチン投与を優先しています。

現状では中性脂肪が過剰に高い場合(400以上)、心血管リスクが高い場合には治療の効果が示されています。また糖尿病や脂肪肝の有無によっても治療の方針が変わります。

 

健康診断などで脂質異常症を指摘された場合

脂質と一言で言っても、前述のように様々な病態があります。まず続発性脂質異常症という、脂質に異常を来す他の原因がないかを検索します。糖尿病、甲状腺機能異常、腎不全、脂肪肝、肝不全などが知られています。初診時に血液検査や腹部エコー/MRI検査を行なっています。動脈硬化の有無を検索するため頚動脈エコーを行い、首の血管のプラークの有無を判断します。また心電図や心エコー検査を行い、疑わしい場合はCT検査で狭心症や心筋梗塞の有無を検査します。

上記の検査からスタチンの適応であった場合はスタチン内服を開始します。半量で2週間処方し、自覚症状に変わりがなければ最大量に増量し継続処方します。血液検査を行い、スタチンの副作用がなければ以降は半年に1回ずつ血液検査を行います。

血液検査や尿検査、心電図は半年に1回、その他のエコー検査は年に1回行なっています。

 

脂質異常症の薬物治療

脂質異常症の薬物治療の中心はスタチンになります。特に高LDL血症に対してはまずスタチンを内服し、副作用が生じるか、スタチンを内服したLDLがどれくらいか ということから追加の治療を考えます。心筋梗塞/狭心症を生じたことがある方、家族性高コレステロール血症の方に対しては、スタチンの効果が不十分の時はPCSK9阻害薬という注射薬を使います。

高中性脂肪血症に対しては選択的PPARαモジュレーターを使用しています。特に心血管リスクの危険性が高い方において心筋梗塞や脳卒中を減らす期待をされています。

 

最後に

1973年に日本人の遠藤章博士がスタチンが発見し、1985年にBrown&Goldstein先生が家族性高コレステロール血症の研究でノーベル賞を受賞しました。以降脂質異常症の治療は発展を続けています。私見ですが、脂質異常症の治療は既に完成しています。今後は完成した脂質異常症の治療を社会にいかに還元していくかが課題になります。スタチンとPCSK9阻害薬という2つの薬剤で大きくLDLを低下させることができ、心筋梗塞を大きく減らすことができます。実際アメリカでは心筋梗塞の発生率は低下しており、これは主にスタチンの恩恵です。日本は未だに心筋梗塞が増えています。スタチンは人類の平均寿命を変えることができるような数少ない薬剤の1つです。当院では正確な情報を提供し、脂質異常症の正しい診療を行うよう努めていきます。

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