認知症の人が「同じことを何度も繰り返し聞く」ということ
みなさんこんにちは。看護師の鈴木です。先日、接客業をしている家族から、「今日、認知症の人の対応をしたんだけど、おんなじことをずっと繰り返し聞いてきたからびっくりした」と言われました。認知症の方と普段関わっているわたしは、「そこにびっくりするんだ」と驚きました。そこで今回は改めて、「認知症の人が同じことを何回も聞くということ」はどういうことなのか、考えてみようと思います。
「何度も同じことを聞く」原因
①中核症状の記憶障害
②不確かさによる不安
この2つが主に影響していると考えます。
まず、①の認知症の中核症状の記憶障害があります。アルツハイマー型認知症は、近時記憶(数分から数日の記憶)、エピソード記憶(どこでなにをしたのか)が障害されます。なので、「どこで何をしたか」「何の話を誰から聞いたか」が分からなくなることがあります。
例)息子に「今日は仕事で帰りが遅くなる」と朝言われていたのに、「何で帰ってこないの?」「いつ帰ってくるの?」と何度も聞いてしまう など
②の不確かさによる不安というのは、認知機能の障害によって感じる不安です。認知症の人は、記憶が曖昧になっていることや、人の話を十分に理解するのが難しくなっていることなど、自分の変化を感じています。なので、認知症ではない人が普通にできることのひとつひとつが不安になってしまい、周りの人に聞いて確認しています。周りの人に質問したことを忘れているので、毎回毎回、本人にとっては「初めての質問」なのです。
どのように関わるか
①同じ思いになって関わる
②安心できる環境を作る
の2つがあります。
①は、「認知症の人が置かれている立場に立って考える」ということです。記憶障害がある人はとても不安です。例えば、自分が酔っ払って昨日の記憶がない状態で、わからないことを聞いた時に「昨日も言ったでしょ?」と怒られたら、すごく怖いし不安になりますよね。認知症の人はそのような体験をいつもしています。認知症の人が今どんな状況でどんな思いなのか、同じ立場になって考えると、自然に声のかけ方やコミュニケーションの仕方も変わってくるのではないでしょうか。
②は、私たちの「話し方やコミュニケーション方法を工夫する」ということです。先程挙げた、「今日は仕事で帰ってくるのが遅くなる」という例で考えると、認知症の人は、曖昧な答えやニュアンスを理解するのが難しくなることがあるので、言い方を「今日は夜の10時に帰る」と言ったり、目につくところにメモを残してわかりやすくするといった工夫ができると思います。
おわりに
今回は、「認知症の人がなぜ同じことを何回も聞くのか」について考えました。同じことを繰り返し聞くことだけではなく、認知症の人の行動には意味があります。「その人の状況だったら自分はどう思うだろう?」と一度立ち止まって考えてみると、認知症の人が体験している世界や思いに近づけるのではないかと思います。