アルツハイマー型認知症の症状
アルツハイマー型認知症の中核症状とBPSDとは
アルツハイマー型認知症の症状は非常に多彩です。アルツハイマー型認知症は脳の海馬という場所から脳全体に広がっていきます。海馬とは記憶を司る部分です。人により病気の広がる部分やスピードに差があります。また病前の性格や脳の性質により起きる症状にも個人差があると考えられています。
中核症状 | 脳の障害による直接的な症状 | もの忘れ、計算ができない、日付や場所がわからない |
行動・心理症状(BPSD) | 脳の障害に他の因子(環境変化や周囲の関わり)が加わって生じる症状 | ふさぎこむ、怒り易くなる、大声を出す、昼夜逆転、幻覚、妄想 |
アルツハイマー型認知症の症状は中核症状と行動・心理症状(BPSD)に分けられます。脳の障害によって直接起きている症状を中核症状と呼びます。中核症状は記憶障害、全般性注意障害、見当識障害、失語、失行、失認、遂行機能障害があります。
一方、行動・心理症状(BPSD)は中核症状に付随して起きる二次的な症状です。BPSDは、中核症状の種類、本人の気質、もともとの疾患、周囲との関わり生活環境などの条件が絡み合って、様々な症状が現れます。BPSDは出現しないこともありますし、一度症状が出ても改善することがあります。中核症状は脳の障害によって起きるので、症状が良くなることはないといわれていますが、BPSDは本人の周りの環境を整えたり、周囲の人の関わり方によって改善することができます。
アルツハイマー型認知症の中核症状について
記憶障害
特徴としては、エピソード自体を忘れてしまう、新しい出来事を記憶する事ができない、ヒントを与えられても思い出せない、時間や場所などの認識が難しくなるといったものがあります。アルツハイマー型認知症による記憶障害は、『思い出せない』ではなく『覚えられない』ことだと言われています。部分的に思い出せない場合や、ヒントがあれば思い出せる場合は病的な記憶障害であることは少ないです。多少のもの忘れは誰にでも起きます。しかしながらさっきのことを度々忘れてしまう場合は明らかに生活に支障をきたすと考えられ、病的な記憶障害の可能性が高いです。
例)
- 夕食を食べたこと、病院へ行ったことなど出来事自体を忘れる
- 物の場所が分からなくなったり、いつも置いていた場所に置かなくなる
- 自宅に在庫があるのに同じものを購入してしまう
- 薬の飲み忘れなどが増え、管理ができなくなる
全般性注意障害
認知症になると比較的に早い段階で見られる症状です。集中が長く続かなくなり、一度に情報を処理する能力が低下します。やや複雑なことを理解したり、記銘したり反応したりすることが難しくなります。同時に2つのことを考えて行動したり、少し難しい文章や会話を理解して返答したりすることに時間がかかります。今までスムーズにできていた作業でミスが多くなったり、ぼんやりして反応が遅くなることがあります。
見当識障害
見当識とは、自分が置かれている状況を正しく認識する能力のことをいいます。見当識に障害が起きると、 年月日、時間、季節、場所、人物などが正確に認識するのが難しくなります。今日は何月何日か、今が何時か分からなくなることが多くなっていきます。一般的に時間→場所→人の順で障害されると言われています。細かい日付を間違えることは健常人でもよくありますが、季節や時間帯(昼か夜か)、今いる場所などが分からないのは明らかに病的であり、認知症の可能性が高いです。
例)
- 夏なのに冬用の服を着ている
- 夜中に起きて朝食の準備を始める
- 通いなれたスーパーで買い物をして、帰り道が分からなくなる
- 人を間違えることが増える、孫と子供を間違えるなど
失語
言葉を司る脳の部分が機能しなくなり、言葉がうまく使えなくなる状態をいいます。話を聞き、話を理解し、それに基づいた返答を相手に伝えるということが出来なくなってきます。
例)
- 言葉が思い出せず、「あれ・これ・それ」などの代名詞の会話が増える。
- 会話のキャッチボールがスムーズに行えず、間が開いたりする。
- 言葉は認知できても、言語理解が出来なくなると「おうむ返し」も増えてきます。
失行
身体的に麻痺などの問題はないが、日常の動作が難しくなる状態をいいます。認知症が進行していくとみられることがあります。
例)
- マッチを擦って火をたばこに付けることなど、動作の組み合わせができなくなるもの(観念失行)
- 図形を模写したり、積み木を積めないなど、視空間認知が障害されている状態(構成失行)
- 普通に箸を使って食事をとれているのに「どうやって箸を使うのですか」と聞くとどうしたらいいか分からなくなってしまうこと(観念運動失行)
失認
失認は体の器官(目、鼻、耳、下、皮膚など)に問題がないのにもかかわらず、五感に関係する認知能力が正常に働かなくなる状態のことを言います。失認は認知症が進行した中等度以降にみられます。
例)
- スプーンを見てもスプーンだと認知できずに使えない(物体失認)
- 知っている人の顔をみても誰なのか、性別もわからない(相貌失認)
- よく知った場所で道に迷ってしまう(地理的失見当)
遂行機能障害
遂行機能障害は、計画を立てて、段取りよく行えなくなることをいいます。比較的早期の 段階から症状がみられることがあります。初期の段階では、本人が気付いていることが多 く、以前に比べて何事にも時間がかかるようになったと落ち込んでしまうことが多くあり ます。
例)
- 調理を段取り良く行うことが難しくなる ・複雑な書類の手続きに時間がかかってしまう
- 器具の説明書を読むのが面倒になってしまう
アルツハイマー型認知症の行動・心理症状(BPSD)について
BPSDは、中核症状に付随して起きる二次的な症状です。中核症状に加えて、本人のもと もとの性格や個々の状態、人間関係、生活環境など、さまざまな要因が原因となって起こ ります。BPSDは認知症ではない人からみると「おかしな行動」に見えると思います。し かし、そのような行動には必ず原因があります。認知症の人が置かれている環境やその思 いになって考え、介護者の関わり方を変えたり、環境を整えることで、症状が改善する可 能性があります。安心して自分のペースで生活できる環境であれば、BPSDがみらずに生 活できている認知症の方もたくさんいます。以下にBPSDの原因の例を挙げていますが、 これは一例です。BPSDは同じような症状に見えて、ひとりひとり原因が違うので、対応 方法も変わります。当院では、本人、支援者の皆さんとともに、BPSDが起こる原因を考 え、穏やかに生活できる方法を一緒に考えていきたいと思っています。お困りのことがあ れば、ぜひご相談ください。
BPSDの原因
- 無気力になる ⇒今まで無意識に行えていた、家事などの日常生活に時間がかかったりできなくなる(遂行機能障害)ことで、何か物事を行うことが億劫になる。
- 意欲が出ない ⇒集中力が低下してしまう(全般性注意障害)があることで、今まで楽しんで取り組んでいた ことが楽しめなくなってしまう
- 財布が見つからないと「盗まれた」と話す ⇒財布を置いた場所を忘れてしまうことや、最後に使った場所などを覚えていないこと(記憶障害)から、盗まれてしまったと思い込み、不安になってしまう 。
- 人柄の変化(怒りっぽくなる) ⇒脳の前頭葉の萎縮により、感情をコントロールすることが難しくなる。
- 感情的に話してしまう ⇒周囲の人にできないことばかりを指摘されることで、尊重されていないように感じ、苛立ってしまう。言葉がスムーズに出てこなかったり(失語)、相手の言葉を理解するのに時間がかかることなどから、もどかしさを感じ、怒りで表現してしまう
- 聞こえない音が聞こえる ⇒認知機能が低下することで、当たり前の日常生活に様々な不安が生じるため、難聴によって聞き間違えた音などが人の声などに聞こえてしまい、混乱してしまう。