高LDL血症
LDLとは
LDLコレステロールとは一般的に悪玉コレステロールと呼ばれています。LDLはエネルギー源として使われることはなく、コレステロールの運搬に関わっています。LDLは血中に過剰に存在すると血管が狭くなる動脈硬化を生じるため、LDLは強力な動脈硬化因子として捉えられています。
人間の理想的なLDL値
LDL 119mg/dl以下 | 正常範囲 |
LDL 120-139mg/dl | 境界域高LDL血症 |
LDL 140mg/dl以上 | 高LDL血症 |
上の表は日本でのLDLの基準値です。あくまで現代の先進国における平均値です。下限はありません。日常診療ではLDLが低すぎて困ることはありません。他の動物や人体の受容体の関係から推測すると、人間の本来のLDLは25mg/dl未満と推測されています。現代人がLDLが高い理由は食生活や生活習慣が関与していると言われていますが、はっきりとしたことはわかっていません。他の動物のLDLは25-50mg/dlが多いようです。赤ちゃんのLDLは大体10-20mg/dlです。遺伝子異常や注射の薬によりLDL 10-20mg/dl程度の方が世界には存在しますが、現在のところLDL低下による健康被害はありません。少なくともLDL 25mg/dlまでは全く問題ありません。LDLが低い場合はがんや栄養状態が悪いことがあり注意が必要ですが、現代医学で「LDLが下がる」ことには何も問題は生じません。LDLについては
The lower, the better:低ければ低いほど良い
というのが一般的な考え方です。動脈硬化の進行は、年数とその時点までに晒されたLDL値の積算に比例して進行するとされています。
LDLは時間と共に徐々に血管に蓄積し、ある一定の境界を越えると心筋梗塞を発症するとされています。年数✖️LDL値が6000を越えると心筋梗塞のリスクが上がるとされています。20歳でLDL 100の場合は80歳前に6000を超えます。そのためより早く、より低くLDLを下げることが大事だと考えています。
以上よりLDL 25mg/dlが人間の理想的な値と考えています。
動脈硬化についての人類の特殊性
人類においては、心疾患が主要な死因の1つです。主な国では日本とフランスだけが、心疾患死よりがん死が多いです。それ以外の多くの国では、心疾患死が死因の最多原因です。人類以外の動物で、心筋梗塞で命を落とすことはほとんど無いようです。①人類は動脈硬化の基盤となる血管内側の膜を持っていること、②他の動物に比較してLDLが高いことが原因とされています。そもそもほとんどの動物は動脈硬化という現象を起こさないようです。人類は地球上で最も繁栄していると考えられていますが、心臓や血管に関しては全生物で最低と考えられています。
家族性高コレステロール血症
家族性高コレステロール血症は治療や予後が大きく変わるため、初診時に必ず検索をしています。下のページで細かく解説しています。
LDLを低下させる治療の対象
LDLを低下させる場合は、スタチンという内服薬を主に使用しています。それでは全人類がスタチンを内服したほうがいいかというと、そんなことはありません。元々動脈硬化のリスクが少ない場合はそもそもほとんど心疾患や脳梗塞を起こさないので、スタチンを内服してもあまり効果がありません。またスタチン自体による副作用もあります。当院では
- LDL 160mg/dl以上
- 心血管病や動脈硬化を生じている=LDLの質の異常
- 脂質異常症かつ他の生活習慣病(高血圧症、糖尿病)
3つの場合をスタチンの適応としています。それぞれについて解説していきます。
1.LDL 160mg/dl以上
LDL 180mg/dl以上は確実にスタチン内服の恩恵があると言われています。LDL 140-180mg/dlは意見が分かれますが、当院では160mg/dlから内服加療を開始しています。LDLによる動脈硬化は時間と共に蓄積していくため、早期の段階で治療するよう心がけています。
2.心血管病や動脈硬化を生じている=LDLの質の異常
心血管病や動脈硬化を生じている場合はスタチン内服の有用性が示されています。LDLが正常範囲でも心筋梗塞が起きることがあります。その場合はスタチン内服が強く推奨されています。これはLDLの質の異常が生じていると考えています。
実はLDLは単一の物質ではありません。大きいコレステロールをHDL、小さいコレステロールをLDLと呼んでいます。同じLDLでも酸化すると動脈硬化を起こしやすいとされています。LDLの質の異常の概念にはLDLが結合する血管壁の問題も含みます。血管に炎症が起きている場合もLDLが血管に沈着しやすいです。
日常臨床では、「動脈硬化が起きている所見を探す」ことが大切です。主に頸動脈エコーで首の血管のプラークを検索し、LDLが正常でもプラークがある場合はLDLの質の異常と捉えて治療しています。
3.脂質異常症かつ他の生活習慣病(高血圧症、糖尿病)
他の生活習慣病で通院中の方は、既に毎日薬を飲んでおり生活習慣病のため心血管病のリスクが比較的高いです。つまりスタチン内服の恩恵が大きいと考え、スタチンを処方しています。
LDL治療の目標
LDLをどこまで下げる必要があるかについては、基本的には低ければ低い方がいいです。副作用がなければスタチンを最大量まで増量しています。目標値を設定しているのは既に狭心症や心筋梗塞を起こした方、家族性高コレステロール血症の方の2パターンのみです。
日本動脈硬化学会 PCSK9阻害薬の継続使用に関する指針 参照
狭心症や心筋梗塞を既に起こした方、家族性高コレステロール血症の場合は、スタチンが効果不十分な場合にPCSK9阻害薬という自己注射薬を使用することがあります。自己注射が必要であり、金銭負担の大きい薬です。しかし強力にLDLを低下させることができます。後述のスタチン不耐である場合も適応となります。使用を検討する際は診察室でご説明致します。
スタチンについて
スタチンは世界で最も使用されている薬です。ペニシリンと並ぶ、医学的な発見と言われています。スタチンは筋障害と肝障害を来すことがあります。これはスタチン不耐と呼ばれ、対応も各国で明文化されています。日本の学会から下のような推奨がされており、当院ではこの推奨に従っています。一つの薬の継続困難がここまで大きく取り上げられていることは他に見られません。スタチンを安易に中断してしまうことが、後の心血管リスクを上昇させてしまうことが報告されています。スタチンは安全で有効な薬と国際的にもアナウンスされています。スタチンを内服開始後に検査異常や症状が生じた際の対処は全て明文化されています。スタチン開始後に体調変化を感じた際はご相談下さい。
https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/statin_intolerance_2018.pdf