狭心症と心筋梗塞の違い【循環器内科医による解説】
今回は狭心症と心筋梗塞の違いについて解説していこうかと思います。
はじめに
まず狭心症と心筋梗塞はどちらも心臓の血管の病気です。特に心筋梗塞は命を落としてしまうこともある怖い病気です。現代でも心筋梗塞を起こすと、3人に1人は命を落としてしまう とされています。心臓の周りの血管を冠動脈と呼びます。冠動脈を通って血液が心臓に流れています。
- 狭心症は冠動脈が狭くなってしまう病気
- 心筋梗塞は冠動脈が詰まってしまう病気
です。それぞれについて細かく解説していきます。
狭心症
狭心症では冠動脈が狭くなってしまう病気です。そうすると心臓に必要な血液が足りない状態になります。特に運動した時は心臓に負担がかかります。脈が早くなって血圧が上がるため、心臓により多くのエネルギーが必要となります。そのため多くの血液を必要とします。そういった時に心臓に血液が足りなくなる、これを狭心症と呼びます。
典型的には階段を登った時、早歩きをした時、自転車で坂道を登った時などに胸が痛くなります。ただ10-15分程度休んでいると心臓の負担が抑えられて胸の痛みも治る これが典型的な狭心症の症状です。
心筋梗塞
心筋梗塞は冠動脈(心臓の血管)が詰まってしまう病気です。そうすると心臓に血液が全く流れません。ここが狭心症との違いです。そのため安静にしている時も心臓に血液が足りない状態が続きます。血液が流れないと心臓の筋肉の細胞が壊死、つまり心筋細胞が死んでしまいます。
心筋梗塞の典型的な症状としては「急に胸が痛くなって胸の痛みがずっと続く、休んでも症状は良くならない」という症状です。
心筋梗塞が起きると
上の説明に「壊死」と書いてますがこれが非常に大事です。心筋梗塞を起こすと心臓の筋肉が壊死、つまり死んでしまいます。これによって様々なことが起きます。心筋梗塞を発症すると心臓の筋肉の細胞は30分で壊死が始まります。時間とともに進行していき、12-24時間で心臓の筋肉の細胞が完全に壊死してしまいます。壊死してしまうのは心臓の詰まった血管の先の部分です。
例えばこの図の血管が詰まってしまうと、その先にある黒い部分が壊死してしまいます。心臓の筋肉が壊死してしまうと、
- 心不全
- 不整脈
- 機械的合併症
が起きることがあります。壊死した心臓が動かなくなってしまうので、心臓の機能不全である心不全を起こすことがあります。また心室細動、心室頻拍と呼ばれるような、突然死を起こし得る危険な不整脈を起こすことがあります。また最悪の場合、心臓の筋肉が壊死してしまうと心臓の壁がもろくなってしまって穴が開いてしまうことがあります。心臓に穴が開いてしまった場合は多くの場合は救命困難です。心臓の筋肉が破れてしまったり穴が開いてしまうことを機械的合併症と呼んでいます。
心筋梗塞が起きた時は
では心筋梗塞が起きてしまったらどうすればいいでしょうか?心筋梗塞が起きた場合、血流を再開させることが大事です。我々は迅速な「血行再建」という言葉を使っています。詰まった血管をもう一度血流再開させることです。血行再建は主に心臓のカテーテル治療で行っています。
日本やアメリカ、ヨーロッパを含む先進国では、「病院を受診してから90分以内に血行再建を行いましょう」という目標があります。救急車で胸が痛い患者さんが運ばれてきて、多くは心電図で心筋梗塞の診断をして、血液検査や点滴、カテーテル治療の説明、カテーテル室への移動、カテーテル室の電源立ち上げ、放射線技師さんや看護師さんの招集、薬や機器の準備 と数多くのことを行います。それで90分以内 というのはなかなか大変ですが、日本の多くの病院では90分以内に血行再建が行われていることがほとんどです。ここ数年は9割程度の心筋梗塞の方が90分以内に治療を受けています。
心筋梗塞が起きると時間とともに心臓の筋肉の壊死が進んでいきます。より早く血行再建ができれば心臓の筋肉がより多く助かります。具体的には、3時間以内に完全に治療できれば助かる心臓の筋肉が多い とされています。治療は早ければ早い方がいいです。もし「突然胸が痛くなった、胸が締め付けられる、重いものが胸に乗っかっているような感じ少し休んでも良くならない」という症状が起きたら、少なくとも1時間以内(早ければ早い方がいいので30分以内でも全く構わないです)には救急車を呼ぶようにしましょう。
まとめ
- 狭心症は心臓の血管が狭くなってしまう病気です。原則的には狭心症では心臓の壊死は起こりません。
- 心筋梗塞は心臓の血管が詰まってしまう病気です。心筋梗塞では心臓の壊死が起きてしまうため、命に関わるような心不全や不整脈が起きてしまうことがあります。
以上になります。下のページで狭心症や心筋梗塞について細かく解説しています。よければお読み下さい。