心房細動のカテーテルアブレーションを勧める人、勧めない人【循環器専門医が解説】
はじめに
皆さん心房細動という不整脈をご存じですか?心房細動は日本に100万人が罹患しているとされています。心房細動は脳梗塞や心不全の原因になる「怖い」不整脈です。ただ心房細動にはカテーテルアブレーション治療という治療法が存在します。カテーテルアブレーション治療は心房細動の根治を目指す治療法です。我々循環器内科医がどういう患者さんにはカテーテルアブレーション治療を行い、どういう患者さんにはカテーテルアブレーション治療を行なっていないのか その基準についてお話ししようと思います。
カテーテルアブレーション治療を勧める人
◎心不全の人
心不全が合併した心房細動の人に対してもカテーテルアブレーション治療が望ましいです。心房細動は心臓の収縮が不定期になってしまうため、心臓の機能が低下してしまいます。そのため心房細動は心不全を引き起こします。さらに心不全は心臓、特に心房に負荷がかかることが多く、心不全が原因で心房細動を引き起こすこともあります。心房細動を起こすと心不全になり、心不全になると心房細動がより持続する という悪循環を生じます。専門用語では「心房の電気的/機械的な変性が進行する」と表現しています。そのため心不全が合併した心房細動の人に対しては「まず心房細動のカテーテルアブレーション治療を行う」というのが標準的な治療です。心不全が合併した心房細動のカテーテルアブレーション治療は、はっきり生命予後改善効果を示されている領域です。つまり「カテーテルアブレーション治療をすれば寿命が伸びる」ということです。そのため心不全を合併した心房細動の人にはカテーテルアブレーション治療を「強く」推奨しています。
◎1年以内の持続性心房細動
一般的に心房細動は初期は発作性心房細動という状態です。普段は正常な脈で、たまに心房細動が生じている状態です。徐々に心房細動の頻度が増加し、最終的に持続性心房細動という状態に移行します。「ずっと心房細動」という状態です。持続性心房細動になってしまうと、心臓の変性の進行スピードが加速します。長期に心房細動が持続してしまうと、心臓の変性が高度でありカテーテルアブレーション治療が困難となります。「カテーテルアブレーション治療をしても心房細動が治らない」という状態です。心房細動の持続期間が伸びるにつれてカテーテルアブレーション治療の成功率は低下します。個人差はありますが、10年ほど持続した心房細動だとカテーテルアブレーション治療の成功率は低いと言わざるを得ません。ではどのタイミングまでにカテーテルアブレーション治療を行えば「手遅れ」にならないのでしょうか?
1年以内の持続性心房細動であれば、心臓の変性はあまり進行しておらず発作性心房細動と治療成績は大きく変わりはないと言われています。そのため、カテーテルアブレーション治療を行う場合は持続性心房細動に移行して1年以内に行うのがいいと思います。
やはり実臨床では「カテーテルアブレーション治療は一旦様子を見たい」という患者さんが多くいらっしゃいます。心不全合併例ではカテーテルアブレーション治療を強く推奨しますが、心不全が合併していなければ患者さんの意向を尊重し様子を見ていることもよくあります。しかしながら時間と共に心房細動は進行し、いずれ持続性心房細動に移行します。私はそのタイミングでもう1度カテーテルアブレーション治療の話をしています。「絶対カテーテルアブレーション治療を受けない」と心に決めているのであればいいですが、受けるつもりが少しでもあるなら持続性心房細動に移行して1年以内に治療を受けた方がいいです。
個人的にはカテーテルアブレーション治療を話すタイミングは2つあると思います。1つ目は「心房細動を診断されたとき」、2つ目は「持続性心房細動に移行したとき」です。3つ目は「心不全になったとき」ですが、心臓の状態次第ではカテーテルアブレーション治療は成績が悪い、もしくは治療ができないです。更に言うと心不全になってしまうと、心房細動は仮にうまく治療できても心不全自体が完全に治るわけではありません。そのため1年以内の持続性心房細動はラストチャンスだと思って、しっかりカテーテルアブレーション治療の説明をしています。
○症状がある人
カテーテルアブレーション治療の有効性が以前より示されている患者群です。心房細動による症状は、動悸、息切れ、めまいなどです。心房細動による動悸などの症状が度々生じている人が、カテーテルアブレーション治療により症状が改善もしくは消失することが期待できます。特に医療機関を受診するような強い症状を2回以上生じた場合は、基本的にカテーテルアブレーション治療を検討しています。
個人的にはカテーテルアブレーション治療を受けた方がいいと強く思うのは、心不全の人と1年以内の持続性心房細動の人です。症状のある発作性心房細動の人は、症状の強さや頻度、自身の価値観で考えていくのがいいと思います。
カテーテルアブレーション治療を勧めない人
・80歳以上で無症状で心不全でない人
まず心房細動の治療に限りませんが、現在は医療の適応を年齢のみで区切ることはありません。80歳代でも心不全合併例ではカテーテルアブレーション治療を勧めることはあります。
ただ心不全でもなく症状もない高齢者に対してはカテーテルアブレーション治療は消極的な医師が多いです。私も同様に考えていますが、2024年の不整脈治療のガイドラインに「無症候性心房細動に対するカテーテルアブレーションを、高齢者(80歳以上)に対して予後改善効果を目的として施行しないことを推奨する」と記載してあります。心房細動のカテーテルアブレーション治療の研究においても、高齢者では治療における予後改善が明らかではなかったとされています。つまり「カテーテルアブレーション治療をしてもあまり寿命は変わらない」ということです。高齢者においては心房細動以外の要素が寿命に影響しているとされています。
繰り返しになりますが、高齢でも症状があったり心不全を合併した心房細動はカテーテルアブレーション治療を検討すべきと思います。身体機能や患者背景を考慮し、適応があれば迷わず治療を受けた方がいいです。
今も「高齢だから」という理由で必要な治療を受けれていない人がいますが、もしそういった場合はぜひ当院にご相談ください。
・発作性心房細動で1回目の発作の人
初めて発症した心房細動の半数以上は1年以上再発しないとされています。例えば今まで感じたことない動悸が突然起きて、医療機関で心房細動と診断されたとします。多くの場合は翌日止まっています。今までに心房細動を疑う症状がなければ、基本的にはいきなりカテーテルアブレーション治療は行いません。心エコーで心不全や弁膜症の有無を確認する必要はありますし、症状はないだけで日常的に心房細動が生じている可能性もあるのでホルター心電図を行います。いずれの検査も問題なければカテーテルアブレーション治療は現時点では不要です。
状況に応じて脳梗塞を予防する血液サラサラの薬や脈を抑える薬を使用し経過をみていきます。数ヶ月後に再度同じような発作が起きた場合は、その時点でカテーテルアブレーション治療を検討すれば問題ないです。発作性心房細動で急を要してカテーテルアブレーション治療をすることは無いです。
カテーテルアブレーション治療の今後
最後にカテーテルアブレーション治療の今後についてです。当初は心房細動のカテーテルアブレーション治療は症状を抑える効果しかないとされていました。最近は心不全を合併した心房細動を中心に、予後改善効果の報告が相次いでいます。以前は心房細動はまず抗不整脈薬(不整脈を抑える薬)を使用し、薬の効果が不十分な場合にカテーテルアブレーション治療を行っていました。ただ最近は抗不整脈薬を試みる意義が乏しいです。明らかに成績が良い別の治療法があるにも関わらず、あえて成績が悪い治療を最初に行う意味がありません。個人的には抗不整脈はほとんど使うことはありません。なんらかの理由でカテーテルアブレーション治療ができない場合や再発した場合、カテーテルアブレーション治療までの待機期間などに抗不整脈を使用するのみです。心房細動のカテーテルアブレーション治療はより安全性が高くより成功率が高い治療に進化しています。現在はパルスフィールドアブレーションが日本に普及し出した段階です。既にカテーテルアブレーション治療が心房細動治療のファーストチョイスと言っていいと思います。
心房細動に似た不整脈として心房粗動があります。心房粗動は基本的にカテーテル治療を行います。心房粗動のカテーテル治療は成功率も極めて高く、合併症も非常に少ないです。「心房粗動をあえて薬のみでコントロールする」なんてことは行いません。そのため心房粗動で悩んでいる患者さんは極めて少ないです。おそらく心房細動の診療も心房粗動の診療に近づいていくと思います。