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認知症

以前認知症は「痴呆」という言葉が使われていました。痴呆という言葉には「愚か」「ぼんやり」などの意味あり、「頭の働きが鈍い」「未熟である」「劣っている」ことと記されています。すべて侮辱的な表現です。痴呆は「恥ずかしい病気」との誤った認識から、早期受診・早期発見の妨げになっていました。

2004年に厚生労働省は行政用語を認知症と変更しました。現在日本医師会では「認知症」という呼び名で病名を統一しており、医療機関では認知症という用語を用いています。痴呆という言葉は差別用語であり、決して使用しないようお願いします。

認知症は脳の障害によって起きる病気です。早い段階で気づき、適切な治療を受けることで症状の進行を遅らせ、環境調整を行うこことで穏やかに生活を送ることができます。下に細かく解説します。

 

認知症とは

認知症とは「一度正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態」のことを指します。加齢と共に増加し、日本では約460万人(65歳以上の15%)が認知症に罹患していると推定されています。今後社会の高齢化と共に増加が見込まれています。生活に障害をきたし、生活の質の低下や介護者の負担を招くことがある疾患です。認知症にいかにして対処すべきかが社会の大きな課題です。

 

認知症についての誤解

認知症になると「何もできなくなってしまう」という印象がありますが、それは誤りです。認知症が重度に進行するまでは、食事をしたり、お話をしたり、私達と同じようにできる事が多くあります。認知症が進行すると、徐々に今までできていたことを一人で行うことが難しくなってきます。重度になって自分で動く事ができなくなったり、会話がスムーズにできなくなっても、感情はあります。認知症の方の意思や感情は、基本的に最後まで保たれています。

 

正常な認知機能とは

認知症の方は正常な認知機能が障害されています。社会の中で大半の方が正常な認知機能を持っているため、我々は無意識のうちに認知症の方に正常な認知機能を前提として接してしまっています。この考え方を意識することで、認知症の方に対する関わり方が大きく変わります。認知症の方と関わりを持つ場合は下のページで細かく解説していますのでお読み下さい。

認知機能とは

 

認知症の種類

認知症の原因となる疾患はさまざまであり、一説には100種類以上の原因があると言われています。最も多いのがアルツハイマー型認知症(約6~7割)で、次いで脳血管性認知症(約2割)、レビー小体型認知症(約0.5割)となっています。その他にも正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫などの脳外科的疾患、甲状腺機能低下症やビタミンB12欠乏症などの内科的疾患の一部があります。脳外科疾患や内科的疾患の一部は治療することで劇的に症状が改善します。

 

加齢に伴うもの忘れ

加齢に伴うもの忘れは認知症ではありません。「晩ご飯を食べたことは覚えているけど、何を食べたか忘れてしまった」といった部分的なもの忘れが特徴です。このもの忘れは、ほとんど進行しないものが多く、進行しても緩やかです。日時や場所が分からなくなることはなく、日常生活へ影響がでることはほとんどありません。加齢によるもの忘れと認知症は、問診や認知機能検査を行うことによって区別します。当院ではもの忘れ検診を行っています。もの忘れに不安のある方はぜひご相談下さい

もの忘れ検診

 

MCI

MCIとは軽度認知障害を指します。MCIは日常生活に支障はでていないというのが認知症との違いです。MCIのポイントとしては、①認知機能の低下の訴えがあること ②実際にもの忘れなどの認知機能低下があること ③認知症ではないこと ④日常生活が自立していること が挙げられます。MCIは認知症の前段階とも言われており、MCIの方の10~15%が1年で認知症に進行するとされています。逆に正常な認知機能に回復することもあります。

MCIから認知症への移行を防ぐ薬剤はありません。MCIから認知症への移行を防ぐためには、生活習慣病の適切な治療と社会的な活動性を保つことが大事です。当院では早い段階で診断し、定期的に生活習慣病の管理や日常生活の相談を受けるMCIフォローアップ外来を開設しています。MCIでは何かしらの不安や生活への支障をきたす事があり、生活環境の調整などを行います。

MCIフォローアップ外来

 

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は認知症の6-7割を占めます。糖尿病や高血圧症などがリスクとなり、75歳以上に多い疾患です。原因ははっきり解明していませんが、タウとアミロイドという2つのタンパク質が脳にたまることが関与しています。脳の神経細胞に障害を起こし、脳の萎縮が生じます。記憶に携わる海馬という部分から障害が広がっていくので、初期の症状としてもの忘れが現れます。5-10年の経過で徐々に進行し、道に迷ったり家事ができなくなったりという症状が起きます。アルツハイマー型認知症の進行を抑える薬で治療します。薬剤治療と併せて、生活の質を整えていくことが大切です。認知症の大半がアルツハイマー型認知症であり、下のページに細かく解説しています。

アルツハイマー型認知症

 

脳血管性認知症

脳血管性認知症とは脳梗塞や脳出血などの脳卒中により生じる認知症です。脳卒中の場所や大きさによって障害される機能が異なり、症状は階段的に進行すると言われています。麻痺や歩行障害、呂律障害などの身体機能障害、不安や焦り、怒りっぽくなるなどの感情コントロール障害が起きることがあります。

慢性脳虚血性変化という脳の血流障害が脳血管性認知症を生じることがあります。脳の白質という部分に生じるため大脳白質病変とも呼びます。慢性脳虚血性変化は脳梗塞とは異なり、血液サラサラの薬は一般的に使用しません。慢性脳虚血性変化は血管が固くなってしまう動脈硬化により起きます。血圧のコントロールが最も大切です。慢性脳虚血性変化による認知症は、多かれ少なかれアルツハイマー型認知症が合併しているとされています。慢性脳虚血性変化による脳血管性認知症でアルツハイマー型認知症との合併が予想される場合は、アルツハイマー型認知症と同様の薬剤治療を行います。また生活習慣病のコントロールが認知症の進行予防につながります。

 

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、脳にレビー小体という物質が形成されることで発症します。脳の後頭葉という部分から始まり、徐々に脳全体に広がります。後頭葉は視覚をコントロールしています。後頭葉が障害されるので、実際には見えないものがはっきり見えるという幻視が起きることがあります。

幻視 具体的なものが繰り返し見える
認知の変動 一日の中ではっきりしている時とぼーっとしている時がある
レム睡眠行動異常 寝ている時に手足をバタバタさせる
パーキンソニズム 振戦、動作緩慢、筋肉固縮

の4つのうち2つ以上を認めるとほぼ確実にレビー小体型認知症とされています。治療としてはアルツハイマー型認知症と同様の薬剤治療を行います。

 

その他の認知症

正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫などの脳外科的疾患、甲状腺機能低下症やビタミンB12欠乏症などの内科的疾患の一部は治療することで劇的に症状が改善します。画像の検査や血液検査をすれば容易に診断できる病気がほとんどです。

認知症ではありませんが、認知症とよく似た症状を起こす疾患があります。代表的なものはうつ病とせん妄です。種類が多いので下のページにまとめています。

その他の認知症、認知症と間違えられやすい疾患

 

薬物治療

認知症の治療は薬物療法と同様に認知症ケアが大事です。現状では認知症の方の認知機能を正常に戻す薬はありません。薬を使う理由は2つあります。

  • 薬により認知症の進行を抑えることが期待できる
  • 薬により認知症により生じた生活の支障を取り除くことができる

という2つです。認知症に対しては薬剤治療をオーダーメイドで組んでいく必要があります。認知症により生じた生活の支障は、時間をかけて話を伺わないと分かりません。更に生活の支障を取り除く方法は薬だけではありません。認知症の方は、それぞれ障害された認知機能も生活も違います。だからこそ認知症の薬物治療は『何を目的に薬を使用し、どういった項目で薬の効果を評価するか』が非常に大切です。当院では薬物治療の目的と効果は明確にするよう心がけています。

 

認知症ケア

認知症ケアとは認知症の方との関わりです。認知症ケアが必要な理由は、『認知症の方は社会で困っているから』です。認知症により生活の支障が生じている場合は、認知症ケアが第一選択となります(第二選択は上に記載してある薬剤治療です)。認知症のどのような症状により本人がどういったことで困っているのかを明らかにすることが大事です。環境を調整することや関わりを通して本人の困りごとを減らします。認知症になったからといって、身の回りのことが全てできなくなるわけではありません。できる力を活かして生活できることを目指していきます。当院では認知症看護外来を設立しています。対象となる方はご説明します。

認知症看護外来

 

最後に

認知症は「歳だから仕方がない」「恥ずかしい病気だから隠したい」という誤った認識があります。それにより適切な治療を受けられずにいる方がたくさんいらっしゃいます。認知症の方も認知症でない方も人生の価値は同等です。認知症に対する正しい情報を発信するのも当院の役割です。我々は認知症の方の人生に寄り添いながら、治療方針を考えたり、生活を整えていくお手伝いをしていきたいと思っています。願わくば、共に人生を楽しみましょう。ぜひ気軽にご相談ください。

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