震え
震えとは
震えとは体の一部に生じる、自分の意思とは関係ない規則的な運動です。筋肉の収縮と弛緩が繰り返された時に起きます。震えは医学的に振戦と呼びます。振戦の主な原因として生理的振戦、本態性振戦、パーキンソン症候群、代謝性疾患(アルコール性、薬剤性、甲状腺機能亢進症)が挙げられます。振戦とは厳密には異なりますが、ミオクローヌスや小脳失調という病態があります。震えという訴えで来院することが多く、併せて解説します。
震えの診療
まずは震えが振戦かどうか診察します。振戦以外にミオクローヌスや小脳失調も「震え」という症状で来院します。振戦の場合はまず血液検査を行います。甲状腺機能亢進症や薬剤性などの代謝性疾患の検索を行います。代謝性疾患以外の振戦の大部分は本態性振戦とパーキンソン病です。
生理的振戦
生理的振戦は誰にでもある程度見られることがある生理的な振戦です。体の筋肉は神経が制御し、収縮と弛緩を繰り返しバランスを取っています。ただ力を入れた時や手を目一杯伸ばした時など、僅かな振戦を認めます。不安や緊張時に振戦は増します。これは生理的現象であり、病的なものではありません。生理的振戦は誰にでもあるため、アーチェリーや射撃などの競技が存在しています。
本態性振戦
本態性振戦は神経系の異常が原因とされています。振戦以外の症状は起きません。はっきりとした原因は不明とされています。振戦の大部分は本態性振戦とパーキンソン病です。典型的な本態性振戦の振戦は、両手に生じる姿勢時振戦と言われています。「腕を下ろして力を抜いた状態では振戦は起きず、腕を前に伸ばして空中で保つと振戦が生じる」というのが典型例です。パーキンソン病と見分けることがポイントとなります。
本態性振戦 | パーキンソン病 | |
年齢 | 青年期と65歳以上に多い | 60歳以上に多い |
家族で同じ症状の方 | 多い | 少ない |
振戦以外の症状 | なし |
動作が遅くなる 筋肉が固く動きにくくなる 転びやすくなる |
場所 | 両手がほとんど | 左右差があり、足にも生じる |
書字 | 大きく震える文字 | 小さい文字 |
発声 | 声が震える | 小さい声 |
飲酒した時 |
振戦が軽減する | 不変 |
画像検査 DaTSCAN/MIBGシンチ |
正常 | 異常 |
治療薬 |
β遮断薬 | L-dopa、ドパミンアゴニスト |
本態性振戦はβ遮断薬という薬で軽減します。本態性振戦の全員に治療が必要なわけではありません。本態性振戦は日常生活に支障がなければ特に大きな心配はありません。概ね日常動作の支障になっているかで治療するかどうかを決定しています。字を書くのが難しかったり、家事に支障が出ている場合は治療が必要です。どれくらいの症状で支障が出るかはその方の日常生活や趣味などにも関わります。例えばピアノが趣味である方は、演奏の時だけ薬を飲むこともあります。
パーキンソン病
パーキンソン病は振戦が生じる代表的な疾患です。パーキンソン病は決して稀な病気ではなく、60歳以上の100人に1人がパーキンソン病と推定されています。パーキンソン病は脳にあるドパミンという物質が不足することにより生じます。ただ振戦のみでパーキンソン病の診断となることはありません。パーキンソン病の4大症状は安静時振戦、動作緩慢・無動、筋強剛、姿勢反射障害であり、2つ以上当てはまる時に診断しています。パーキンソン病の診断のためには各種画像検査などが必要です。
パーキンソン病は正しく診断加療すれば薬剤が著効します。パーキンソン病の平均的な経過は20-30年に及ぶとされており、ほとんどの方が60歳以降で発症します。
代謝性疾患
甲状腺機能亢進症、薬剤性、アルコール性疾患、肝臓疾患などによっても振戦が生じます。血液検査や問診で調べています。
ミオクローヌス
ミオクローヌスは厳密には振戦とは異なります。ミオクローヌスとは自分の意思とは関係ない瞬間的な筋収縮です。ミオクローヌスは原則的には不規則な収縮であり、規則的な収縮である振戦と分けて考えます。脳や末梢神経が原因で生じます。脳が原因のミオクローヌスの一部はてんかんとの関連があります。最も有名なミオクローヌスはしゃっくりです。
小脳失調
小脳失調による震えは「行き過ぎによる動揺」と表現されています。小脳は運動の強さやバランスを整える運動調整機能があります。小脳失調では運動のバランスをうまく調整できないことにより、うまく動作ができなくなります。ある物に指を伸ばしたときにうまく辿り着かず左右に指を動かすことがあり、震えとして来院されることがあります。原則的には動作時のみの不規則な震えです。指鼻試験という検査で評価します。小脳失調の時はMRI検査を行います。
最後に
震えは細かく話を聞いたり診察することでかなり具体的に原因を絞ることができます。特に多い本態性振戦とパーキンソン病は薬が効きやすいと言われています。お困りの際はご相談下さい。